エッセイーー鷲田清一

「聴く」ことの力: 臨床哲学試論 (ちくま学芸文庫) 作者:鷲田 清一 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 2015/04/08 メディア: 文庫 そもそも西欧のエクリチュールの歴史においてエッセイとはなんであったかという問題が、まずある。これについてわが国ではじ…

文楽の人形ーー和辻哲郎

文楽座の人形芝居 作者:和辻 哲郎 発売日: 2012/09/14 メディア: Kindle版 人形の肢体が紐であるということは、実は人形の肢体を形成するのが人形使いの働きだということなのである。即ちそれは<全然彫刻的な形成ではなくして人形使い的形成>なのである。…

鸚鵡石

言語遊戯の系譜 作者:綿谷 雪 出版社/メーカー: 青蛙房 発売日: 2015/04/01 メディア: 単行本 さあ鸚鵡石社僧正云え(俳諧ケイ、二十一) の句は、伊勢の鸚鵡石に難題を出して、わざと云いにくい社僧正の語をいわせる、という意。鸚鵡石は呼石とか物云い石とも…

牛蒡と女性器

言語遊戯の系譜 作者:綿谷 雪 出版社/メーカー: 青蛙房 発売日: 2015/04/01 メディア: 単行本 歯が抜けたそうでおかしい牛蒡売り(柳多留、三三) 牛蒡という語は、gの音がひびきにくいから、早口にいうときにはbo-boと成り易い。つまり卑穢語であって、これ…

ブラッドリー『真理と実在に関するエッセイ』 第一章 序 9

対象の欠如、ましてや対象の探求は、ある意味において、その対象の知識を含む。もしそれをいつ所持し、いつ獲得していないのかを語ることができないとすると、彼は決してそれを追い求めることはないだろう。追求において、またそれによって、正反対の想定に…

ブラッドリー『真理と実在に関するエッセイ』 第一章 序 8

確かにその本性から、哲学はもっとも高次のものと交渉し、それ自体が間違っているのでなければ、その固有の性格にそれらのことを認めねばならない。そうした親密さが精神に何らかの影響を与えるのは間違いない。しかし、どんな場合に、その力がどれだけある…

ブラッドリー『真理と実在に関するエッセイ』 第一章 序 7

芸術や哲学に対して、自らの限界を認めることは、道徳にとっては難しいことであり、宗教にとっては余計に困難である。*ここではこれ以上この問題に立ち入ることなく、哲学の領域に侵入することは、健全な道徳や宗教の関心とは反するという意見だけは表明し…

ブラッドリー『真理と実在に関するエッセイ』 第一章 序 6

(e)我々がこうした抽象を追い払ったとき、最終的に我々は究極的な善をあるより高次な生の全体性に置くことに導かれる。個人間での愛や友情、家族やそれより大きな集団に見いだされる社会的結合に、我々は最終的に具体的ですべてを包括する善に達すると主張…

ブラッドリー『真理と実在に関するエッセイ』 第一章 序 5

また、実践にはよく知られた不整合性がある。私は実践を実現化されていない観念に含み、依存するものとする。それは「そうなるべき」と「いまだ」という観念を含んでおり、実際に実行されるべき何かでるが、実行されるやいなや、直ちに実践的であることを終…

ブラッドリー『真理と実在に関するエッセイ』 第一章 序 4

(a)最初に快楽をとれば、すぐにそれが善だという印象を与えられるだろう。原因がなんであれ、それが激しく純粋なものである限り、それは我々に絶対的な実在の感覚を与えるように思われる。しかし、他方において、快楽の純粋さについての疑問をおいておくと…

ブラッドリー『真理と実在に関するエッセイ』 第一章 序 3

こうした反省から二つの結論に導かれる。一方において、生は、それが善である限りにおいて、それ自体正当化される、他方においては、完璧な善というのは見いだされない。それゆえ、我々は我々の性質の一側面を至上のものとし、他の側面はそれを助け、その規…

ブラッドリー『真理と実在に関するエッセイ』 第一章 序 2

端的に言って、すべての思考は、暗黙のうちだろうと明らかにされようと、ある種の検証を受け入れいることを同意することにある。別の言葉で言えば、ある種の満足を追求することにあり、そうした追求に関与しないかぎりは、議論は誰にも訴えかけることはない…

ブラッドリー『真理と実在に関するエッセイ』 第一章 序 1

*生のあらゆる側面は、結局のところ、善に従属する、つまり、善を非常に広い意味にとればである。生のあらゆるところで、我々は、多かれ少なかれ、なぜという疑問を問うよう余儀なくされるように思われる、この問いに対する答えは、満足という事実、不安が…

ブラッドリー『真理と実在に関するエッセイ』 前書き

この本は、主に『マインド』に掲載された論文からなっている。『哲学的レヴュー』に最初に発表されたものも加えられ、これまで発表されていないものもいくつかある。三編の例外を除き、後はここ五、六年のものである。章立てにされているのは、言及するとき…

ケネス・バーク『恒久性と変化』80(翻訳)

締めくくりにあたり、別の観点に立ってみるのがいいだろう。この後記はあちらこちらに眼をやっている。そのすべてを一度に見るには、リチャード・H・ブラウンによる『社会学のための詩学:社会科学のための発見の論理に向けて』(ケンブリッジ大学出版、1…

ケネス・バーク『恒久性と変化』79(翻訳)

後記 『恒久性と変化』 回顧的展望 『恒久性と変化』及び『歴史への姿勢』(それぞれ初版は1935年、1937年)の新しい版の後記では、この初期の二冊の姉妹編が私の仕事すべてを貫く論理(あるいはいまではむしろ「ロゴロジー」と言うだろうが)によっ…

ケネス・バーク『恒久性と変化』78(翻訳)

Ⅶ.動機としての「完成」 「罪の贖い」といった概念を考えるとき、ベンサムなら「原型的イメージ」とでも呼んだであろうもの、賠償によって債務を皆済することが認められる。次に、こうした考えに一般的に沿うと、社会の一般的な生活手段が純粋に「精神的な…

ケネス・バーク『恒久性と変化』77(翻訳)

Ⅵ.犠牲行為の諸相 ここで、我々の劇学的な考え方に沿った考察を試みてみよう。 犠牲行為による正当化の様態の一つとして、世俗化された「苦行」についてみてみよう。別の場所で発表された論文「批評家にとっての死観:死と死ぬことについての簡潔な語彙集」…

ケネス・バーク『恒久性と変化』76(翻訳)

Ⅴ.犠牲行為の「完成」 ある意味で、我々は陳腐な事柄を再発見しているに過ぎない。実際的な政治家が、敵とでも共有されるものを使って同盟を結び、一時的に相異を棚上げすることなどはごく「自然」で「正常な」こととして誰でもが認めているからである。そ…

ケネス・バーク『恒久性と変化』75(翻訳)

Ⅳ.「二つの重大な契機」 前三節において、我々は次のことを見た。(1)人間に特徴的なシンボルを使用する動物としての性質は、単なる動物としての属の性質を超越し、純粋に人工的な所有、権利、義務が生じる。(2)複雑な社会秩序のなかで必然的な所有は…

ケネス・バーク『恒久性と変化』74(翻訳)

Ⅲ.位階、官僚制、秩序 「位階的動機」と言うことで、我々が「名声」などの同義語を提示しているだけだと考えられるかもしれない。競争を含む語であれば何でも目的に役立つので、ある意味ではそうも言える。しかし、我々の関心事は用語の問題ではないし、類…

ケネス・バーク『恒久性と変化』73(翻訳)

II.位階的気後れ 神秘が階級間の疎隔の表向きの表現であるなら、裏向きの表現は罪である。(その中間の気後れを考えることによって容易にこの事実を認めることができる。ある領域の専門家は別の領域の専門家に対して「罪がある」わけではない。気後れを感じ…

ケネス・バーク『恒久性と変化』72(翻訳)

補遺 「劇学的に」考察された人間の行動について [我々はいまでは『恒久性と変化』を、個人が集団的な形で動機に取り組む際の弁証法的方法を説いたものと言える。新しく関連した問題を考慮し、同じ方向性をもったこれ以後の発展を示すものとして、フォード…

ケネス・バーク『恒久性と変化』71(翻訳)

結論 全三部を通じて、我々は孤立して考えられることもある多様な文化的あらわれにある切っても切れない関係を示そうとしてきた。通常分離していると考えられているものを連続したものとして扱おうとした。ある定位、あるいは世界観がどのようにして自己永続…

ケネス・バーク『恒久性と変化』70(翻訳)

厄介な抵抗 確かに、我々が疑似命題を生の複雑な局面すべてに拡大しようとすると、相当厄介な抵抗に出会う。詩人が題材を扱う際の相当厄介な抵抗と同じである。我々は自分の意図する秩序に伴う難点を「利他的に」考慮に入れなければならない。厄介な抵抗とい…

ケネス・バーク『恒久性と変化』69(翻訳)

ロレンスへの二重の擁護 先述の議論は、それぞれの互いの関わり合いを示すことで、多くの言葉を引き出すことになろう。行動は好みを含む故に根本的に倫理的である。詩は倫理的である。職業や最優先任務は倫理的である。倫理は我々の手段の選択を形づくる。そ…

ケネス・バーク『恒久性と変化』68(翻訳)

第七章 行動の詩 神秘家による闘争の無効化 我々は以前に行動が純粋かつ端的に戦いとしてあらわれる騒然とした階梯について考えた。神秘家はしばしば、行動の戦いとしての側面が完全に無効化されるところに規律を見いだそうとしているかに思われ、その結果戦…

ケネス・バーク『恒久性と変化』67(翻訳)

弱さと勇敢さの両面価値 我々はまた、「優越」と「劣等」の逆説的な関係についても注目する必要がある。アドラーは人間の動機づけの本質を何らかの「器官劣等」に見ている。この劣等が「劣等感」を与え、それがしっかりと食い込んでいる場合には、その人間の…

ケネス・バーク『恒久性と変化』66(翻訳)

第六章 職業と最優先任務 職業概念の拡張 我々の職業とは何だろうか。その数は電話帳に記載された商売や専門職に限られるのだろうか。人は配管工、パン屋、銀行家、医者、作家などにのみ従事するのだろうか。猫背であること、ポープよりも聖書を読むこと、「…

ケネス・バーク『恒久性と変化』65(翻訳)

「メタ生物学」の概略 生物学、人類学、社会学の領域に適用したとき、背後からの力である因果性の要となるのは、生物と環境との進化論的関係であった。個別なものとして捉えるなら、生物はばらばらの単位であり、多かれ少なかれ環境の文脈と対峙している――そ…